ステンドグラス制作者の「ぎやまん草子(その19)」 「アンティークガラス」

もう10年近く前の事ですが、地元龍ヶ崎にあるガラス工場「カガミクリスタル」を見学しました。ここは、日本芸術院賞を受賞し、日展参事でもあったガラス作家・故各務鑛三(かがみ こうぞう)氏が興した日本初の本格的なクリスタル会社です。広い敷地内では、多くの職人達が、クリスタルのコップや花瓶、お皿を伝統的な吹きガラスで成型し、切子やグラビールといった研磨技法で装飾し、素晴らしい作品に仕上げていました。ここは、昔で言う宮内庁御用達でもあります。
古来ガラス製品の多くが、カガミクリスタルと同じ吹きで作られてきました。これは、長い鉄管の先に高温で水飴のようになったガラス塊を付け、管のもう一方の端から息を吹き込んでガラスを膨らませる技法です。食器類はもとより、大きな板ガラスもこの方法で作られてきました。そしてヨーロッパには、今もこのアンティークな技法でステンドグラス用板ガラスやお城の窓ガラスを作っている工場がわずかに残っています。
平成12年に、そんな工場の一つフランス南部のサンゴバン社を訪れました。腕っ節の強そうな職人が、長さ二メートルくらいの鉄管を操り、直径50センチ、長さ1.5メートルほどの巨大な円筒状の瓶を吹き上げていました(写真1)。実は私も吹きガラスを体験したことがあります。普通に吹くとガラス風鈴のように球状に膨らむだけなんですよね。しかも、管とその先についたガラス球が意外に重く重労働です。彼らサンゴバンの職人は、管をくるくると回転させながら見事にきれいな円筒状に膨らましていました。次の工程で、この瓶の頭とお尻の部分を切り落として筒状にし、これを開いて板ガラスにします。出来上がったものをアンティークガラスと言います。
吹きで一枚一枚手作りされたアンティークガラスはそれ自体が芸術品です。ステンドグラス制作者は、その芸術品に傷を付け、切り刻み、再度組み合わせて新たな作品にします。ゆめゆめ、板ガラスが本来持つ美しさを損なうこと無きよう努めます。

サンゴバン社のアンティーク製造の様子

写真1:サンゴバン社のアンティーク製造の様子

行灯「鯉」

写真2:アンティークガラスの美しい模様を活かすように作ったステンドグラス行灯「鯉」、サイズ:直径19cm×高さ49cm

ブログのランキングに参加しています。ぜひワン・クリックお願いします(励みになりますので)。
にほんブログ村 美術ブログ ガラス工芸へにほんブログ村

コメントは受け付けていません。