新ガラス工芸の開拓

 大型電気炉(窯)も出来上がり、当初の目的どおり(といってもここで初めて明かしますが)、新しいガラス工芸を開拓すべく、試行錯誤を続けています。
 と、まあ大げさに書きはしましたが、実際は従来あった表現手法の融合といった感じです。
 ステンドグラスをやっていて、「もっと活き活きした線を描きたい」と思うことがあります。これは、ステンドと同じくらい墨画もやっているので、そう思うのかもしれません。墨画の即興性と活きた線質は、とても魅力的です。それと同時に、滲んだような柔らかな輪郭も。
 一方、ガラスの良さは、光と艶、発色にあると思います。さらには、扱いにくい硬さと、壊れやすい繊細さなどの素材の魅力です。
 そして、できれば透過光がなくても反射光できれいに見えるもの。
 この欲張りな要望を叶えてくれる表現手段を開発中です。

 火加減と、割れの問題は、ほぼ解明しつつあります。今は、もっとアート寄りな課題と取り組んでいます。

パピエ・ド・ヴェール(フュージング画)4作品 公開

新型窯の新調から始まり、テスト、試作を続けてきたパピエ・ド・ヴェール(後にフュージング画と改称)ですが、一応1次作品群が出来上がりましたので、公開させていただきます。詳しくはGalleryのコーナーをご覧下さい。
今までステンドグラスを続けてきて、一番思うことは、即興性に欠けていて緊張感が今ひとつ無いなあ、ということです。もちろん、古来ステンドグラスに絵付けはされてきましたし、シャガールなどは、思いっきり描いています。ですが、もっとマチエールや滲みを画面に留めたいと思うのです。
そこで、このパピエ・ド・ヴェールは、文字通りガラス板を和紙に見立てて、思いっきり描いています。とても気持ちが良いです。また、紙と違って、書き損じたらティッシュで拭き取ることが出来ます。納得いく線が描けるまで、何度でも描き直せます。はっきり申し上げて、発展途上の技法ですが、当分楽しめそうです。

 

フュージング画「麦畑」

フュージング画「麦畑」

※この作品の説明は、ステンドグラス工房達風サイトの作品集ページで。

フュージング画「月下」

フュージング画「月下」

※この作品の説明は、ステンドグラス工房達風サイトの作品集ページで。

フュージング画「コウホネ」

フュージング画「コウホネ」

※この作品の説明は、ステンドグラス工房達風サイトの作品集ページで。

フュージング画「石楠花」

フュージング画「石楠花」

※この作品の説明は、ステンドグラス工房達風サイトの作品集ページで。

 

大型電気炉の制作 <その10.融かしてみました>

 電気炉(窯)が出来て、いよいよフュージングの実施です。
 ずっと、大きな窯が手に入ったらやってみたいと思ってきた大判のフュージング。デザインだけで3日掛かりました。ステンドと勝手が違うので、小さなピースで試作とデータ取りを繰り返し、イザ本番。
 窯は800mm×500mmまでのフュージングが出来ますが、今回は最初ということで、250mm×370mmの小ぶりのパネルです。温度コントローラにプログラムを打ち込み、ON!
 順調に温度が上がっていきます...100℃、200℃、300℃...
 550℃で一旦停止。
 階段温度制御で最大765℃まで上げました。ここから冷却過程です。徐冷点は550℃に設定て15分間のアニーリング。ちょっと短かったかな、と思いましたが、後でもう一度窯に入れるので、その時はじっくりアニーリングしよう。
 そんで、最初の窯入れで出来たパネルです。

 なかなかイイではないですか。割れていないし。
で、さらに絵付けして2度目の窯入れ。
 順調に温度が上がっていきます...100℃、200℃、250℃...ぼすっ!
 なんか音がしたなあ(いやな予感)。
 そっと覗き窓から覗き込み...
 やっぱりなあ... 割れている。 無惨です。4分割ってところだなあ。」
 そう。前回の窯入れの時の徐冷が不十分だったようです。内部に歪が残っていたのでしょう。
 いい勉強になりました。
 でも、楽しいです。

大型電気炉の制作 <その9.テスト2>

 いよいよ実用テストに入ります。
 まず、グリザイユの焼付け温度の目安600℃です。グリザイユの焼付け温度は、ガラスで両持ち梁を作り、そのガラスが軟化して中央がたわみだす温度です。
 スパン4cmの両持ち梁を5セット作り、炉床の中央と4隅に置きます。これで、様子を見ながら600℃まで上げていきます。

 室温から600℃まで、わずか25分で到達しました。外部の周囲(蓋や側面、底面)を触っても全く熱くありません。かなりの断熱性能です。

 その後、600℃を5分間保持し、あとはOFFして自然冷却しました。サンプルのガラス梁は、炉床中央に置いた物は大きく7mmたわみ、4隅のはわずかに2~4mmたわみました。このままでは、温度ムラがありますので、運用時には、焼付け温度手前で10分ほど保持して、温度ムラをなくさなければならないことがわかりました。

 次に、フュージングの目安温度である800℃まで上げてみます。サンプルは、2.5cm×1cmのフューザブルガラスを2枚重ねたものです。これを炉床中央と4隅に置きます。

 800℃までは、45分で到達しました。その後800℃を10分キープし、OFFしました。この時点で外周部を触ってみましたが、温かい程度です。

 冷却後サンプルを取り出してみたら、ほぼ全部が同程度に丸くなりました。これなら実用上問題ありません。温度ムラも小さいことがわかります。

 ちなみに、冷却中に遅れて周囲に熱が伝わり、500℃付近に下がった時点で、周囲は触れなくなりました。
 テストの結果、問題点も浮かび上がりました。
 (1)セラミックボードに塗ったコーティングのベタック#900Bは、高温でひび割れて反り返ってしまいました。恐らくこのまま使い続けていたら、剥がれて落ちてきてしまいます。作り方を変えるか、コーティング材は他のものにした方が良さそうです。

 (2)一過性のことですが、最初にセラミックボードに熱が加えられたとき、250~300℃で内部の有機原料が燃焼します。このとき、臭くて目に沁みる煙が出るので難渋します。換気を確りしましょう。ただ、2回目の加熱からは煙は出ません(燃え尽きた場合)。
 今後も、使いながら問題点が出てくるかもしれません。ですが今の時点で、一応実用レベルのものが出来上がったのは嬉しいです。
 掛かった費用は以下のとおりでした。
・材料代:178,000円
・買い増した工具代:4,000円


 <<<実は>>>
 実は電熱線の抵抗値が気になって、新しいテスタを買って計ったんです。そうしたら、10.1Ωでした。200Vで19A流すためには、200÷19=10.53Ω必要なんです。つまり、0.43Ω少なかったんですね。抵抗値は、大きい分にはあまり問題ありませんが、小さいと事故に繋がる恐れがあります。
 そのことを電材屋さんに電話で言ったら、担当者は「製造誤差範囲内ですね。最初に『抵抗値重視』と仰ってくれれば、相応の対応が出来たんですが。」と言われました。その後、電話を上司といわれる人と代わってもらい、交渉の結果、なんとか足りない分0.5Ωほどを、送ってもらうことになりました。
 この経験から、
 今後電熱線を買うときには、電材屋さんの製造誤差を事前に聞いておき、その分をプラスして抵抗値で発注することが望ましいと思いました。また、多少割高になっても長めに発注し、ユーザーサイドで所望の抵抗値に切り直すのが間違いないでしょう。
 この記事を読んでいる電材屋さんがいましたらお願いしたいのは、
 コイルを密着巻きしていて、そのままでは仕上がり抵抗値を測定するのが難しいのであれば、治具でわずかに引っ張りながら計るなりして、「出荷前検査」をして欲しいです。

大型電気炉の制作 <その8.テスト>

 昨日から、テストに入っています。
 まず、本ちゃんの200Vを流す前に、100Vで100℃まで上げて、漏電、ケーブルの発熱、温度コントローラ不良、異臭、発煙等の無きことを確認しました。
 次に200Vで、同様の確認。そして、温度を徐々にアップ。
      まず、100℃...問題なし。
        200℃...順調。
       250℃...むむむ?
 なにか臭わないか?
っていうか蓋と本体の隙間から
なにか噴出してるぞ!!
 急いで電源を切り、蓋を少し開けてみてびっくり、炉の内部は蒸気のようなものでいっぱいです。
 それに、炉床に敷いてあった真っ白のはずのセラミックボードが茶色い!
(下の写真は、後に炉から取り出したボードです)

 実は、この茶色い部分。指でほじくると、ぼろぼろと崩れるんです。明らかに強度が落ちています。炉床のボードは多少軟化してもかまいませんが、同じセラミックボードで出来ている蓋が軟化したらひとたまりもありません。そこで、恐る恐る蓋の表面を覆うコーティングを剥がしてみました。

 どっひゃ~っ! 中もまっ茶色です!!

(それにしても、このコーティングに生じたヒビも問題だなあ)
 炉内に何か燃えるものがあって燻されたのでしょうか?だって、耐熱温度1260℃のセラミックボードが燃えるはずないですし。
 最初に疑ったのが、ニクロム線の周りに防錆用の塗料などが塗られていて、それが燃焼したのでは、ということ。でも、それは違いました。なぜならば、セラミックボードの以外のレンガの部分が全くきれいなままだったからです。
 次に疑ったのが、炉内に充満していた水蒸気です。この出所はすぐに分かりました。セラミックボードを張り合わせたとき、その隙間に大量に塗った接着剤の水分が、乾燥せずに残っていたのです。この水蒸気とボードが反応して茶色になったのでしょうか。
 早速、別の小さな電気炉の内部にボードの断片を入れ、同時に内部を水蒸気で満たして加熱して見ました。そうしたら、300℃あたりでまっ茶色に変色しました(下の写真の中央のピースは、水蒸気を出させるために水をいっぱい吸わせたボード。この子は水分のせいで温度が上がらず、変色しなかった)。やはり、変色と軟化の原因は水蒸気だ!憎き水蒸気!!

 実は、今日までその仮説を信じていたのですが...
 セラミックボードは、300℃付近で、必ず茶色になることが分かりました。業者さんに状況を知らせるメールを出したら、回答がありました。曰く、
「ボードは有機原料を含有しているので低温の時は茶色になり、さらに炉内温度が500~600℃以上になると白色になります。使用上は何ら問題ありません。」
 そうだったんですか。普通に起きる現象だったんですね!試しに、小さな炉でセラミックボードの破片を加熱してみたら、300℃あたりで茶色になりました(水分が無くても)。そして、600℃で、再び白くなりました(下の写真左→右)。

 そして、もう一つの事実を知りました。セラミックボードは、加熱すると柔らかくなってしまうということです。加熱前は固めの凍み豆腐程度ですが、加熱後は指でぐずぐず崩れるコロッケくらいでしょうか。これも仕方ないようです。
(下の写真は、様々な条件で600℃まで加熱したボードの断片です。指で簡単に粉々になります)

 まずは、原因がはっきりしてほっとしました。軟化してしまったボードを上手に使っていくしかありません。幸い自重が軽いので、無茶をしなければ今すぐ破損するということは無さそうです。後は、ベタックを表面に塗り塗り、強度アップを図ろうと思います。
 下の写真は、蓋内部に残った水分を飛ばすために、蓋を少し開けて通電し、徐々に温度を上げているところです。今日は400℃まで上げました。
 ちなみに、最初に感じた異臭は、ボード内の有機原料の燃焼する臭いだったようです。以後、だんだんと臭いは減っています。

大型電気炉の制作 <その7.細部の造作>

 電気炉制作も終盤です。細かい細部の造作が中心です。
 まず、炉の内張りです。20mm厚のイソウールボードを内寸に合わせて切断し、炉床と側面に敷きつめます。

 次に覗き窓です。レンガを削り作ります。取り外さないと炉内部が見えないただの「栓」のバージョンと、中に透明雲母板を貼り付けて、装着したまま見えるバージョンとの2種類を作りました。

 次に絶縁ケーシングです。蓋上面には高温・高電圧部分があるので、危険防止のため、トタン板でケーシングします。ホームセンターで3×6尺の板を買ってきてブリキ鋏でカットして作りました。サイド部分には鎧戸風の通風孔が付いています。

 一応、完成した姿です。これから、種々のテストに入ります。

 テスト1:ガラスと、イソウールボード、ベタック#900との相性テスト
溶けたガラスは、様々なものにくっ付きます。また、はじいて付かない相手もあります。炉の床材であるセラミックボードにガラスが付くのか付かないのか、また、コーティング材であるベタックに付くのか付かないのか。常温硬化したベタックと他の耐熱材との融着はないかなど、あらかじめ知っておかなければなりません。
 前から使っている小さな炉に、テストピースを並べ、800℃まで上げてみます。

 結果は、少し見難いですが、下の写真の通りです。左から、
 1)常温硬化したベタックはレンガに融着しない
 2)常温硬化したベタックどうしは融着しない
 3)セラミックボードにガラスは少しこびり付く
 4)ベタックにガラスは激しくこびり付く
でした。実際に、この炉を使ってフュージングする場合、床面には離型紙(セラフォーム)を敷かないといけないようです。

 これから、しばらく様々なテストを重ね、改良していく予定です。

大型電気炉の制作 <その6.温度コントローラの制作>

 昨日今日と涼しくて、作業に適しています。また、合間に神社に行き、夏越の大祓えに参加してきました。
 まず、蓋を開け閉めする「取っ手」作りです。飾りのような存在なので、手持ちの木材で適当に作りました。

 しかしこの蓋。重量が20kgもあって、片手で開けるのは不可能に近いんです。そこで考え出したのが、ウィンチとワイヤーによる巻き上げ方式。ウィンチは、マリーンスポーツ用で、ボートを陸に引き上げる時使うヤツを、ネットオークションで安く手に入れました。付属のワイヤーは太すぎるので用いませんでした。プーリとワイヤーはホームセンターで買いました。
 ・ワイヤー付きハンドウインチ:850LBSブレーキ(ロック)機構付き ¥2,400
 ・滑車:32mm ¥252
 ・ワイヤー4m+停め金具 ¥900

 これを、やぐらに張り巡らして、女性でも簡単に開閉できるカラクリを作りました。くるくる回すのが面白いらしく、高所作業担当者は、しばらく遊んでいました。

 さて、次に電気関係を攻めることにします。まず、温度センサーを蓋の中央に取り付けます。これは、一般によく用いられるKタイプ熱電対です。
 ・熱電対: シマデンTD-11S-048150KC51-0 ¥3,500

 温度コントローラは、プログラム温度調節計とかプロコンとか言われるもので、複雑で長時間の温度履歴を必要とするガラス工芸では不可欠です。
 今回は、調節計として理科工業製のREX-P48を、またこの調節計によって大電流をON/OFFするSSR(ソリッドステートリレー)としてシマデン製PAC03Bを用いました。また、ケースは市販のスチール製道具箱を加工して用いました。
 REX-P48は、8セグメント動作を2パターンプログラムできる上、電気炉の温度特性を自動測定して最適な制御特性(PIDゲイン)を算出するオートチューニング機能があります。
 ・プログラム温度調節計: REX-P48FK22-V ¥35,000
 ・SSR: PAC03B-040-20 ¥9,200
 ・スチール道具箱 ¥1,300


 スチール道具箱に換気用と配線、調節計用の孔を開けます。とにかく大きな音がでるので、ご近所に気兼ねしてひやひやです。

 配線は、端子をカシメて、端子板にネジ止めする形で行います。

 そして、出来上がりです。まだ動作テストはしていませんが、見た目はまあまあです。色々な制御盤を制作していた学生時代(20年前)を思い出しました。

 安全装置は、安全ブレーカ、温度ヒューズ等を購入していますので、テストを重ねながら装備していく予定です。また、現在使用中の3KW電気炉を取り付けたとき電気工事屋に加工してもらったコンセントから、電力は供給します。